深度

デートをすっぽかされても、社長に「ごめん、今月の給料の支払い5日待ってくれない?」と言われても、恋人を親友に寝取られても、それほどまでには動じない、私は比較的安定した精神の持ち主だと思う。だけどPMSには完敗だ。今朝は通勤電車の中で私の背後のしつこくつり革を掴んでいた男性がようやくあきらめたつり革が振り子の原理で私のあたまにがこんとあたっただけで、たいそう侮辱されたような気がしてとても悲しくなった。そんなちっぽけだけど哀しい事故がさらに暗い予感をもたらす。たぶん私のつわりは重いと思う。そして難産だと思う。私の母は実際に重かったというし、私は帝王切開で生まれている。つわりのことを思うと、憂鬱になる。まあまだ出産の予定はないし、出産の予定が目の痛くなるほど真っ白な紙だということがさらに哀しい。とにかく、閉経を心待ちにしている。そして閉経までには子供を産みたい。Zzz・・・


クッツェーの「エリザベス・コステロ」。すごくおもしろい。久しぶりにどきどきしながら読んでいる。小説を読むときに私が気になっていたこと。ものすごいスリル。彼からいろいろ教えてもらった。ホフマンスタールマリアン・ムーア、ポール・ウェストなどなど。ヘレニズムとカソリシズムについて。ユリシーズは、やはりきちんと読もうと思った。間違いなく私の最も好きな作家の一人。惜しむべきは私の無知。数々の引用にするりと思い当たれば、さらに何十倍も深く、読み応えのある小説だろうに。


その人と、話さなくては私は、だめなのだ。久しぶりに聞いた声に、心底安堵した。いらだちのすべてが消えるような気がした。私の視点のすべてはその人で、その人がいなければ、何も見えない。考えらなれない。ぐるぐると一人でまわる思考を打ち明けようとして、閉じこめられたつたない言葉をつぶやけば、驚くほどの早さで理解して、海に還してくれる。つまりこういうのを恋というのだろう。些細なことなんてどうでもよくなる。それでも、絶望の原因が単なる嫉妬だと気づいて、驚いたりする。おかしなこと。恋の深度は歳を追う度に、回を重ねる度に、浅くなると思っていたのにな。