いくつかの物語

sumikko2005-02-06

今年の夏、4年ぶりにヨーロッパに長期旅行にでることにした。と言ってもたぶん一ヶ月くらいがせいぜいだけど。ガイドブックを眺めていて、全く旅行のプランが立てられないことに気がついた。ガイドブックじゃあ、何が見たいのかわからない。何も始まらない。本屋に行って、西洋建築史と美術史、農業の歴史と食の文化史の本を買ってきた。ついでに高橋源一郎の新作も買った。買ってきた本を読みながら、一体私は今まで何を見てきたのだと、愕然とした。4年前、フランスとイタリアを3週間ほど旅していたけど、見るべきものはほぼみていない。なんてこったー。といいつつ、そのときの私は、そのときなりの視点で今の私には得られないものを、得ていたとも思うのだけど。とにかく今は、見たいものを定めてもういちどガイドブックを開いて確かめる。それが正しいガイドブックの使い方だ。私はずっと誤解していて、昔ガイドブックを作っていたときに、いつもなにか腑に落ちなかった。無駄ともいえそうな情報の集積に骨身を砕いて何の意味があるのだろう?今なら、もう少しましなガイドブックが作れるだろうな。でも、そこへはもう戻らない。


休暇最後は横浜へ。中華街の正月って今日だよね、と言って出かけたのだけど、一週間先だった。だからとても落ち着いた中華街散策ができた。初めてみなとみらい線に乗る。遅めのランチは北京ダック。紹興酒を飲むも、二日酔いが残ってる体にはきつい。その後赤レンガに行く。ここは、ほぼ二年前に来た。あのときが一番幸せだったなあ、とぼんやりと思う。赤レンガの中で、ふざけ半分で手相を見てもらう。おすぎみたいな占い師に開口一番「金遣いが荒いわね」と言われる。「でも大丈夫、あなたお金には困らないわ」(今現在困ってるっつーの)。「あなた体は大きいけど(大きなお世話)、心は少女のままなのね。美しいものが大好き。欲しいものは手に入れなきゃ気が済まないのね(ええ、永遠の少女目指してますから)。でも飽きっぽいのねえ(ぎくり)。向上心がとても強いのね。リーダーシップがあるわ(えーっ。めんどくさいー。一匹狼派なんです)。結婚よりも仕事優先みたいね。自分のライフスタイルを壊されるのを嫌うのね(いや恋愛至上主義のつもりなんですけど。恋愛もライフスタイルの一部ですし)。あらやだ結婚をどこかに置き忘れてしまったの!?賞味期限は短いんだからもっと結婚を意識しなきゃだめよ!!(結婚を置き忘れた!?)あらとても好きな人がいるのね。でもだめよ、顔を見てるだけで幸せなのね、もっと求めなきゃだめよ(今ちょっと求めるのに疲れたとこなんです)。あらでもあなたもててたじゃない(え、過去形ですか?)。あなたいくつ?やだごめんなさい26歳?じゃあまだ大丈夫。30歳までは人気線がとても強いわ。それまでが勝負よ(あと3年ちょいかー。つーか私30歳以上に見えてたって事ね?)。ものすごくものごとを深く深く深く考える質なのね(いや浅いっすよ)。こんなに深く知能線が入り込んでるのはめずらしいわ。鍛えれば占い師にもなれるわよ(もしかして勧誘だったの?)」て感じで1000円で結構楽しめるから、一度やってみても楽しいかもです。宿泊はみなとみらい(MM21)の突端にある帆船型のホテル。海側の部屋で、大きな窓から港が見える。ホテルからのプレゼントでワインが一本置いてあったので、飲みながらぼんやりとする。陽が沈み星が瞬き始め、部屋が蒼くなる。港には灯りが鏤められ、光に彩られた船が行き交う。時間がゆがむ。言葉が消えて何分?ものすごくロマンティックだねー。でもアルコールに疲弊した体にはワインは苦く、むしろ痛い。そして、今一緒にいたい人のことを想う。深く想う。心で何を思おうが、私の自由だ。みんな自由だ。本当に欲しいものは絶対に手に入らないから、手に入れられるものくらいはすべて欲しい。そう、こんな私が手に入れられるちっぽけなものぐらい、すべて欲しいんだよ、占い師。それでも外面はとてもはしゃいでシャワーブースを泡だらけにしてみたり、私のアパートの部屋よりも大きいんじゃないかと思われるベッドをごろごろ転がってみる。枕とか投げてみる!じゃれ合ってみる!頭が痛い!!壊れる!!!
一夜明けても晴れていた。遮光カーテンの隙間から見える外の白さが怖い。気持ち悪いくらい眠い。チェックアウトの時間ぎりぎりまで、寝てしまう。こんなに眠いなんて、どこか具合が悪いのかもしれない。違う。夜中目が覚めて、高橋源一郎の「性交と恋愛にまつわるいくつかの物語」を読んだんだった。キムラサクヤとマツシマナナヨにはうんざりしたが、短編は良かった。ウィンドウズがよかった。ふと、セックスは言葉を持たない者同士のコミュニケーションなのだと思った。私はここに、皮膚があることさえもどかしい。
疲れているのか疲れていないのか、空腹なのかそうじゃないのかわからなくて、とりあえず、大好きなベーグルを食べることにした。クランベリーベーグルにメープルウォルナッツクリームチーズをはさんだ。レッドジンガーのお茶を飲む。好きな食べ物、嫌いな食べ物の話は当たり障りのない良い話題。私は雪見大福が嫌い。飲み込むタイミングがわからない。
唐突に温かい湯に浸かりたくなる。体全体が冷えていた。スーパー銭湯のようなものに行く。休日のスーパー銭湯は異常な混みよう。ジャクジーに浸かる。体の芯が氷解する。溶けて涙もでてくる。シャワーの順番を待っている間、自分の体を鏡でみる。久しぶりにじっくり見る。この体を凝視するのは、自分よりもむしろ相手であるということに、驚く。心なんて見えない。この体を見る。奇妙だと、改めて奇妙だと思う。
ずっと遠くまで旅をしてきた気がした。昨日の昼前家をでたばかりなのだけど、ものすごく昔な気がした。
実は別バージョンの日記を書いていた。横浜で夢のような週末を過ごした26歳バカ女の話。中華街で旨い北京ダックを食い、赤レンガで占いをして、港の見えるホテルの特別フロアに泊まり、夜景を見ながらカクテルを飲んだ。朝食はルームサービスで、チェックアウトをした後は港で遊んで、船で横浜駅まで行った。スーパー銭湯で温まり、東京に帰って最後は鍋を食べた。楽しい週末。これも本当の話。どちらも本当の話。