sumikko2005-01-12

思い出せる限り、今までの人生で「結婚しよう」と言われた事は4回。いつだって私は「オッケー」と快諾してきたのだが、未だ実現していない。どうでもいいのだが、私に求婚をしたうち二人はすでに別の女性と結婚している。ふぁーあ、若かりし頃の思い出。

だから白々しく暖かみを醸し出した暖色系の蛍光灯の下、ジャンキーなピザを快調に胃に収めていく美少年がそのシミ一つない美しい肌に見とれていた私に「カラオケ行かない?」みたいな口調で「結婚しない?」と言ったところで、鈴蘭のように微笑んで「いいよ」と言えるだけの免疫が私にはある。実際に若者が行きたくもないカラオケに「行かない?」というくらいの気分でそのセリフを吐いたことはわかっている。だけどその名字と私の名前の組み合わせは結構気に入って、私は淡い空想に浸ってみる。類い希なる美貌の夫。不釣り合いなカップルの誕生に周囲は世も末だと言うだろう。そんな楽しい空想はあまりにもフェアリーテイルで、私はすぐにふりだしに戻る。相変わらず彫刻のような肌をみつめながら、もしかしたら私の美容液をこっそり使っているのじゃないかと疑う。最近なくなるのが早いもの。

今朝目覚めると喉がからからだった。息を吸うとひゅうと音にならない音を発するほど喉が渇ききっていた。なぜかしら。ふらふらと起きてコップ一杯の水を飲み干し鏡を見て、さらに驚く。うわお、目が真っ赤。コーヒーを飲みながら冷たいタオルで目を冷やす。そんなにも悲しかったであろう夢を想い出そうとしてみるが、全く想い出せない。ふうむ。

通勤電車の中で、黄色い帽子をかぶった子供の手を引くスーツ姿の男性を見てぼんやり考えた。私自身は子供嫌いだが、夫となる人は子供好きがいい。私は自分の子供しか深く愛する自信はない。でもすべての子供を愛せる夫なら、私たちの子供のことはさらに深く愛してくれるだろう。

午後、のらりくらりと仕事をしていると有線が「らいおんハート」を流す。


いつか もし子供が生まれたら
世界で二番目にスキだと話そう
君もやがてきっと巡り合う
君のママに出会った 僕のようにね


今更ではあるが、なんて気持ち悪い歌詞だろう。こんなことを言われたら私は8000メートルくらいひく。大丈夫?ちょっと精神的に問題あるんじゃない?と心配すると思う。
陳腐な例だが、もしも崖っぷちに私と子供がぶら下がっていてどちらか一方しか助けられないとしたら、私は「ごめんね。天国で逢おうよチャオ」と言って躊躇なく子供を助ける男がいい。

特に劇的でもない一日だがなんだか疲れてまっすぐ帰る。揚げ出し豆腐ともずく酢とビールを飲みながら、唐突に今朝の夢を想い出す。夢の中で、私は待ち望んでいた。そしてついに待ち望んでいた人から待ち望んでいた言葉をもらう。それなのに私は、曖昧に微笑んでかわしてしまう。わからない。どうしてそんなことをしたのか。心から望んでいたのに。わからない。これまでの私のいい加減な承諾の返答にもいささかの罪があったのかしらとすまなく思ったり、そんな自分を高慢に思ったりする。でもたぶん、あのときの私は、純粋にそれを望んでいた自分の気持ちに愕然として、ただ単にびっくりしたのだろう。驚いて言葉もでなくて、そんな状態全般がただただ悲しかったのだろうと、そう思う。