sumikko2004-06-29

土曜日から3日間、長崎に行って来ました。今回は仕事ではなく、バカンス。一番の目的はかれこれ12年のつきあいになる友達に会うことで、彼女の棲息地は名古屋、私は東京なので場所はどこでも良かったのだが、なんとなく長崎気分だったので長崎で落ち合うことにした。彼女とは大学時代から東京と名古屋と遠距離友情なので、これまでもいろいろなところで会った。トロントで会ってNYで別れたり、フィレンツェで会ってマルセイユで別れたりもした。今回は半年ぶりに出会ったのだが、全くそんな気がしなかった。昨日まで会っていたようだった。それにしても長崎はすごい雨でした。一時は飛行機の着陸も危ぶまれるほどの豪雨で、仕方がないからちゃんぽんを食べ、喫茶店でコーヒーを飲み、カステラを買い、ホテルの部屋でうだうだとし、一口餃子とビールを飲み、豚角煮饅頭を食べ、カラオケに行った。雨の小休止中にグラバー園とか孔子廟とか大浦天主堂とか平和公園とか行った。あ、思ったより普通の観光してた。港にはスペインからシェフを招いた本格的なパエリヤを出す、フレンチの要素を取り入れたピザやパスタがメインのお洒落なオープンテラスのレストランがあり(節操なないよね)、イケメンが写真入りでおすすめ料理を力説するレイアウトな割には出席簿みたいなストイックなメニューが楽しかった。ともあれ、夕方には雨があがり、少し涼しくなった海の風を受けながら冷たく冷えたワインを飲むのはすてきだった。
最終日はやっと晴れて、ただもう行くべきところはすべて行ってしまったので商店街などをうろうろとした。八百屋さんに「いくり」という小さなすももが売っていて、山のように盛られて200円だった。おばちゃんたちが今朝山に入って摘んできたそうだ。だから200円。でも私は200円お小遣いあげるからこれだけ摘んできてって言われても嫌だよ。いくりを買ってその場で囓ってみたのだけど、実まで真っ赤で驚いた。焼酎につけたりすると赤く染まってきれいなんだそうだ。自然な酸っぱさがあって私は非常に好感を持った。
帰りの空港で、友人が先に名古屋に向けて飛び立ち、私はしばらく新聞を読んだりして時間をつぶした。出発ロビーで搭乗案内を待っているとなにやら視線を感じる。視線の主に見覚えがある。「会ったことあるよね?」とお互いに言う。しばらくして学生時代一緒に「迎賓館地獄の10日間バイト」をやった人だということが判明した。彼とはその前にビッグサイトでのイベントスタッフでも偶然一緒になっていて(同じ掲示板を見ていたと思われる)、ああ偶然だねえ、と思い出話や近況などを語り合ってみる。飛行機のシートも斜め後ろと前で私の隣は空いていたので移動してきた。が、信じられないことに私は離陸して飛行機が車輪を機体にしまうか否かというところで、爆睡してしまった。彼の肩に頭を持たせかけて、Yシャツに涎を垂らす勢いで眠った。私は飛行機のシートが世の中で一番安心できるのです。他にどこにも行きようがないから。着陸のアナウンスではっと目覚め、ごめんとっても疲れていて、とちょっと嘘をつくそばから、窓の外に広がる夕焼けの美しさに心を奪われた。時は19時前。海岸線を縁取る海が金色に輝いている。沈みかけた夕陽が世界をシャンパンに溺れさせてしまったよう。平行して飛ぶ飛行機が光りを遮って大地まで影のラインを引いていた。本当に息を呑むほどきれいだった。ロビーまではバスで移動せねばならず、さあ明日から仕事だとか、かえって今日は早寝しないと、などと口々につぶやき荷物のなかった私はターンテーブルの前でじゃあねと別れた。しかし久しぶりにプライベートで空港に来たのだし、ちょっとおなかも空いたし、発着する飛行機を眺めながらビールでも飲みたいなと思ってガレリア3階にあるデリに行った。するとデリの前でまたさきほどの彼に出会った。気まずいというより、もう笑っちゃう。私はビールとシーザーサラダを頼み、彼はサンドイッチとコーラを食べた。その後彼は京急で帰り、私はモノレールで帰った。私も京急の方が早いし安いのだけど、帰り道はなんとなくモノレールの方がいい。そしていつものように陳腐な感傷に浸ってみる。人と人はこういう風にくるくると出会っては別れるんだろうなと、ごくごく当たり前のことをしみじみと思った。多少ドラマティックな再会のような気がしなくもないけど、別にただ偶然扉が廻って現れたというだけ。子供の頃居間にあったからくり時計の3時に現れる蒼い目のトロルを愛した。5時に出てくるバナナを持ったサルを水鉄砲で撃ち殺した。他の時間は覚えていない。まあ、そんなもんだ。12個のうち、1つを偶然愛して、1つは偶然憎む。その他は無関心。でもその偶然愛したものでさえタイムリミットがくればくるりと廻って帰ってしまう。相変わらずありきたりな思考回路だなあと、ちょっとうんざりしたけど私はこういう感傷に浸るのが大好きなのです。

今朝はまた、いつものように出勤するけど気分が乗らなかった。駅で改札を出ようとすると私の前の、白いシャツ、落として履いたデニム、シルバーのごつい腕時計にリングの、そこまでチャラくないサーファー風の男(推定29歳)が、その前のおじいさんにぴったりくっついて切符を入れずにさらりと改札を出て行った。あまりにもナチュラルな身のこなしで常習犯なことは明らかだった。ヤツはすぐに携帯をポケットから取り出して耳に当てる。激しく嫌悪感をもった。たぶんこの人はいつも、誰からも責められないラインでこういうことを繰り返していくのだろう。今まできっとそういう小さな罪を責められたことはないだろう。私はとっさに範囲外の定期を入れ、音を立てて改札の扉を閉めさせる。そして、ちょっとまちなさいよこの無賃乗車男!(よくかまずに言えたな)と叫ぶ。ヤツは一瞬振り返るがそのまま逃げようとする。私は、逃げるの!?ちょっと誰か捕まえて!駅員さん!!と大騒ぎをする。駅員さんがやってくる。私も正しい定期を入れて改札を抜け、その男のところに向かう。男は、なんだよ、いい加減にしろよ、証拠あるのかよと怒鳴る。私は、今は証拠はないけどあなたが無賃乗車なのは確かに見たのよ!これからも私は見つけたら必ず騒ぐから覚悟しなさい、と言ってそのまま立ち去った。本当に自分が馬鹿に思えてくる。情けなくなる。間違っても正義感とかじゃなくてただの嫌悪感で、ヒステリックで、迷惑な女だ。絶望してその後電車の中で一人ばらばらと泣いた。こんなに公の場で涙を流したのは、昔バカ男がデートを寝過ごしてすっぽかしたとき以来だと思った。