sumikko2004-06-18

昨夜は神楽坂の料亭に行った。初めてちゃんとした料亭の懐石というものを食べた。洋食系には結構強いのだけど、和食系にはめっぽう弱い私。作法とかしらないし、何より箸の持ち方が変なのでどうしても引っ込み思案になる。昨日のお店は路地裏にあるさりげない店で、ふらりと立ち寄ったりは絶対にしない感じ。二人で行ったのだけど完璧な個室になっており、温泉旅行みたいだあ、と思った。私はとてもはしゃいでしまった。ふぐの白子というものを食べた。すごい。すごい美味しいです。ふぐの白子というのは珍しいものだそうで(ふぐ自体私は外では食べたことないのだけど)とてもラッキーでした。白子の食感てちょっとほかにはないですよね。ここの白子は炭火で遠くから焼くので外は少しカリっとしているのだけど、中はとろけるよう。温かいうちにいただきます。これは日本酒がすすむ。雑炊も美味しい。これからは料亭だ、と思った。いや勝手に個人的に思っただけ。
 そして今日は午後出勤だった。幸せな食事の余韻に浸りつつ、のんびり起きて朝一の回で映画を観て、銀座でランチを食べて昼すぎに出社しようと思っていた。8時半過ぎに起き、シリアルを食べていたら固いものが口に当たった。見ると金属の固まりで、わあ不良品だ不良品だと思っていたら、私の歯の詰め物だった。
 実は左上の歯も仮歯のまま1年ちかく放置してあり、それも気にかかっていたのだけど仕事が忙しくてなかなか歯医者に行くヒマもなく、前回みたいにいい加減な歯医者に行くのもいやだったので知人に築地にある歯医者を紹介してもらってたのだが、パソコンにアドレスが入っていて、昨日はさすがに料亭にパソコンを持っていくのは嫌だったので(最近主張するのだけど、良い女の条件は荷物が少ないことと暑さ寒さに強いことだ!)、会社においてきてしまっていた。ネットにも繋げないから電話番号が調べられない。うちにあるタウンページは世田谷杉並区版。どうしよう。この時間起きてそうでネットに繋げる環境にありそうな友達を何人か思い浮かべ、電話。3人目で通じる。どうやら寝ていたみたいだけど無理矢理電話番号を調べさせる。
つつがなく(いや十分つつがあったな)11時30分に予約。築地へ向かう。ものすごくきれいな歯医者さんだった。徹底的に雑菌が嫌いらしく、ボタンを押すと抗菌済みのスリッパがウィーンってでてきたり、うがいの水にはイソジンが加えられていたりする。対応はとても丁寧。自己紹介から始まり、問診もきちんとあるし(お酒をどのくらい飲むかという質問にはちょっとサバをよんでしまった、問題あるかな)きちんと説明してくれる。「緊張すると血圧があがるし、麻酔を使ったときに異常が起こるといけないから」と血圧まで測られる。相談したところ、私の歯をすべて治すと20万以上かかってしまうそうだ。保険の範囲でカバーできる治療なら全部で1万5000円くらいなのだけど、見た目とか素材とか気にすると保険でカバーできないから、20万くらいかかる。歯医者さんはとても親切で、費用の面とかゆっくりご検討ください、という。もういいや、20万でも100万でも好きにしてくれ、と思ったがここで捨て鉢になっても自分が痛い目に遭うだけだからじゃあ検討します、と言う。そして歯形をとる。ところで、ここの歯医者さんは口を開けて欲しいときに「口を開きます」と言う。もっと口を大きく開けて欲しいときは「もっと、口を開きまーす?」と言う。どうして「口を開けてください」じゃだめなのだろう?断られることを恐れているのでしょうか。言われるたびに鳥肌がたった。そして私の歯は14箇所のレントゲンを撮られる。上下左右、これでもかというほどレントゲンを撮る。その後歯の形だかなんだかしらないけど、超接写レンズみたいなのをつけた一眼レフ(デジタルだと思うけど)で歯を激写される。口を開くためのプラスチックの棒を持たされて自ら口を不自然な形に開かされて、さらに鏡とか口の中につっこまれて(ちょっとうえってなる)写真に納められる。そして何枚も何枚も角度を変えながら撮られる。なんだか新しいプレイみたいだと思った。とくに何も感じない私で良かった。そしてそんなに丁寧で親切で徹底している割に、今日取れてしまった私の歯に仮の詰め物をすることはすっかり忘れていたみたい。さっさと次回の予約を決めようとするのでちょっと名残惜しそうなそぶりを見せたらはっと気づいたらしく、もういちど診察台の方へと言われ、仮の詰め物をしてもらった。私はオトナだからヒトの失敗をあからさまに指摘しないのです。
 その後せっかく築地に来たのだから、築地のランドマーク的高層ビルの展望台に行く。47階、地上200メートル。ここにくるのは6年ぶりだ。あの日も今日みたいな真夏日だった。高いところで食事をしたいと私が言って、たぶんとてもうきうきとしてやってきたはず。相変わらず、お台場やトリトンや、都心の高層ビルや、隅田川を行き来する船が霞む。あの日と同じように、ランチを食べることにする。本日のランチは金目鯛のポワレ。味は容易に想像できる。サラダバーとスープとコーヒーはお代わり自由。運ばれてきた金目鯛のポワレは、やっぱり最高にまずかった。馬鹿みたいに天井が高い。明るさだけが自慢みたいな店内で、愛情のかけらもなさそうな給仕が、ヘッドセットをつけながら客を席に案内したり片づけたりしているのを眺めながらポワレを食べていると、変な髭の探偵のことをぼんやりと思った。デザートにミントの葉がちょこんと飾られたサイコロ型のレアチーズケーキがついてこないことや、向かい合って食べる相手の不在がせめてもの救いだった。この退廃感は、記憶と寸分違わなくて、私は6年の間、一体何をやっていたのだろうと、思った。