蜘蛛の巣

どうして毎週金曜日の夜から日曜日の夜までトリップしてしまうのかしら。

日曜日、目覚めると、体温が温かい、と思った。心と体なら、ぎりぎり体の勝ちだと思った。ぼけぼけした頭で、からからの喉で、外はもう午後の予感だし、涙が溢れる。仰向けのこめかみを落下し、髪の隙間を縫う。愛しい人に髪をすくい上げられるような心地よさ。時計をみると13時半だった。今日は晴天。午後のはじめの窓の外の景色は薄く、冷たそうだと思う。約一月続いた丘の祭りは今日が最終日で、最後の日が穏やかな日で良かったと思う。この祭りをみるのは3回目。4回目はあるのかしら。案の定、丘の光は柔らかだけど空気はとても鋭くて、冷たい空気が体の中から冷やしてしまいそうで、私は呼吸にすら臆病になる。一年に一度だけ丘はふだんの丘からは想像もつかないほど賑わう。ぱたぱたと階段を駆け上がってくるオリーブ色の髪の毛の色白の美少女が「ママ早く」と手を引く中年の女性は悲しいほど普通のおばさんで、私は、いつか生まれるかもしれない私の子供について思う。私の地毛は濃い茶色で激しくストレート。私の子供はどうなのだろう?先日女の子4人での飲みの際に、子供嫌いな上、占い師には「あらやだ結婚をどこかに置き忘れて来ちゃったの?」と言われるほど結婚願望に乏しく見える私の、子供が欲しいという発言に皆が驚いた。だけど、仕事も「自分の自由」も、子供を持つことに比べたらとるにたらぬこと。死ぬまでに絶対、どんな卑劣な手を使っても子供だけは産もうと思う。本当に久しぶりに、綿飴なんて買ってもらった。子供のときと全く変わらず、私は機械から噴出される風と飴の糸が、割り箸に絡まって雲になっていく様子を凝視する。手渡された綿飴は、唾液でしぼんで小さな飴の屑となって口に残る。やがて、顔も手も、べたべたになる。逃げられない。蜘蛛の巣に引っかかった。引っかかってしまった。今ならまだ、逃げ出せると小鳥が教えてくれる。でも、逃げる気はない。ゆっくりと蜘蛛が近づいてきて、私の躰を少しずつ、食べ始める。まず、腕。次に足。
最後に一瞬、目が合うかしら?
その一瞬のために、躰を食い尽くされても惜しくない。もしも目があったなら、私は人生で一番幸福な微笑みを浮かべるだろう。その一瞬の期待のために、来るかどうかもわからない蜘蛛を待って、泣いているのも、悪くない。悪くないわ。