サンタさんが困惑するくらいちっちゃな靴下

意味的にはまったく恥ずかしくないのだが、なぜか言いづらい言葉というのがあってそれは人それぞれだと思うけど、私が恥ずかしいと思う言葉は、「肉うどん」と「ミンチ」と「生チョコまんじゅう」。この3つの言葉は発するのが屈辱的ですらある。


既に終わった恋あり、唐突に終わる恋あり、終われない恋あり、様々だなあと思った週末。ごぶさたしております。
先日夜9時過ぎ、5年ぶりに目黒に行った。つまりこの駅のホームでふられた21歳の秋以来で、隣の駅までは何百回も(というのは言い過ぎだが)来たのにこの駅にはそんなに長い間来てなかったのかーとちょっと感慨深い。いきなり告白したあと座ったベンチはもうない。目黒の駅前ってこんなにごみごみしてたっけ。パチンコ屋と雑居ビルだけ。歩道橋の向こうにウェストのカフェ。あのカフェは好きだわ。銀座でたまに行く。喫茶室という形容が相応しく、高くも低くもない天井、安定した椅子とテーブル、ベージュの絨毯。血がとまりそうなほどスローテンポな「田園」が流れている。オレンジピールのチーズケーキとコーヒーを頼む。美味しいケーキ。コーヒーは、イタ公なんて知らねえなってほどのスーパーアメリカン。紙コップの粗野なカプチーノに慣れた舌にはかえって新鮮。ぼんやりと大きな窓から通りを眺めていると、ビジュアル系バンドのライブの帰りであろういでたちの少女がたむろう。「蒼髭上等」「特攻再見」などと書れたちゃんちゃんこ(?)を羽織ったイカスミソフトを食べた直後のような女の子や、真っ黒のフリルのドレスに赤い薔薇のリボンを頭にあしらった娘たちの中に一人だけ、デニムとダウンジャケットのシンプルな身なりの少女がいたが、彼女が機内でだされるような白いコットンのスリッパを履いていたのが一番気になった。どこから来て、どこに行くのだあの娘は。なんて思いながら、実はこの駅にはふられたこと以外なんの思い出もないことに気がついた。そうだった。この街でお茶を飲んだのは、初めてだったのです。
土曜日はランチを食べて渋谷で別れて「恋に落ちる確率」というひどい映画を観た後、大学時代のゼミの忘年会に行く。1年ぶりに会う面々。変わる人あり、変わらない人あり。みんなとても穏やかになっていて驚いた。なんで疲れてるのよ。なんで悟り切ったような顔してるのよみんな。悟ったの?私をおいてみんな悟ってしまったの?まあどうでもいいけど、せめて私のつっこみどころ満載のトークに、ひくな。つっこめ。いらいらして、まつげばしばしの上目遣いのアイフルのCMのチワワみたいな大手金融機関一般職の美少女の「なんで最初の仕事(某大手会社の事務職。3ヶ月で辞めた)を辞めたんですかあ」という質問に「つまんなかったから」と珍しく当たってしまう26歳。おっと負け犬様の光臨?反省。しかしこの娘は誰かの援助なしに生きていくことができなさそうなほど、弱々しい。弱々しそうに見えて実はタフでしたたかな女かもしれないが、もしそうなら私は大歓迎だけど残念ながらみかけ通り弱々しいヤツが多い。その後カラオケ。でもまったりムードなのでマジで歌っちゃだめな感じ。結婚のため中目黒から豪州に去ってしまった元中目黒の女王に会いたい。恋しい。
日曜日、退廃感満点で目覚め、午前中は大掃除。1年ぶりに窓ガラスを拭いたら部屋が明るくなった。午後から渋谷にでて、喫茶店笙野頼子の「金比羅」を小一時間ほど読む。ひさしぶりに宮益坂を表参道方面に歩く。復興した青山ブックセンターに初めて行く。本棚の間を彷徨っていたら、ある作家の非常にレアな詩集を発見し、これを贈りたい相手が強烈に心に来た。泣きたいほど激しくこの本を贈りたいと思った。レジで包装紙とリボンを選んで美しく包まれた詩集を受け取ると、世界が晴れた。スパイラルに行くと様々なクリスマスカードが壁面にずらりと並んでいて、夢中でカードを選んだ。だってこんなに素敵なのに。夢に溢れているのに。「クリスマスは楽しまない」なんて、意固地になるなんてばかばかしいこと。これまでのように愛しい人にカードを送り、プレゼントを買って、パーティーをしよう。だって年に一度のクリスマスだし。
アニエスに行ってプレゼントを買った。ついでに自分の服も買った。タートルとスカートと、プリントがとてもかわいいフレンチスリーブのシャツとベルト。自分のものの方が圧倒的に高い。別に自分への御褒美じゃない。そんなたいそうな人生は生きてない。単に買い物が好き。洋服やコスメやアクセサリーが好き。素敵なレストランやバーや良い音楽や本や映画、鄙びた温泉も近所の図書館も、デートも一人旅もなにもかも大好き。
遅い夕方、唐突にまだ始まってもいない恋のようなものが終わった。自分の冷淡に驚いた。かつて去っていく恋人に見せた女々しさの10分の1を、今発揮できればいいのに。豚足について涙することのできる私が一滴の雫すら流せない。悪いのは、タイミング。あなたも悪くなければ、私も悪くない。キリンジの「牡牛座ラプソディ」のが頭の中でくり返される。笑う鰐とバッファロー。彼にばれたら居直れ。
お金を払えば買えるものの全て。手に入れても似合わないものもあり、それでも欲しいものあり。もちろん恋はそんなものじゃないよ。でも。
私は等量苦しむ恋愛に慣れていない。相手も苦しんでほしいと思うのはひどく高慢。自分だけ苦しめばいいと思うのも、なんて大人げない。だけど、相手に苦しんで欲しくない、と思うのも弱虫。
とりあえず、私はダロウェイ夫人のようにパーティーを開くことに固執する。クリスマスツリーを飾って、チキンとケーキとシャンパンを用意する。それで、待つ。やがて待つのに飽きたら電話して、小さなパーティーに招こうと思う。